どうもKAKA’(@teamkaka10)です。
先日3Dプリンタの記事を読みました。
www.financialpointer.com
私は製造業に勤めており、製造業の動向はとても気になっています。
以前クリス・アンダーソン著『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる
』という本を読みました。
3Dプリンタなどのデジタル機器を使用する事でアメリカの製造業がどの様に変わっていくかという事が書かれています。
初版が2012年発行で少し古いですがその内容を紹介します。
趣味を本物のビジネスに
【本の要約】
これまでの製造業は大量生産によりコストを削減した物を消費者に届ける事がビジネスモデルとなっていました。
物を製造する為には生産設備が必要になり製造手段を支配する者(企業家)が権力を持っているのが製造業になります。
かつては、アイデアだけで世界を変える事は難しく画期的な発明をしてもそれを数百万個の単位で製造できなければ、グローバルなビジネスに発展する事ができませんでした。
つまり『個人は発明家にはなれても起業家にはなれなかった』というのが今までの製造業になります。
しかしインターネットが出てきたことにより、発明家となる個人がデジタルツールを利用してPC上でデザインし、3Dプリンタやレーザーカッター、3Dスキャナ等の工作機械を使用し、個人が物を製造する環境が整いました。
また、製造請負サービスも手軽に利用できるようになり、アイデアさえあれば誰でも本格的に製造業が始められるようになりました。
物作りを通して、自分のアイデアをネットに投稿し、SNS等でシェアされ拡散する事で、オンラインでプロジェクトが共有され、更に大きなアイデアへと発展し、商品としての可能性も広がり、個人がメイカー(作り手)として自立できる環境が整っています。
著者は、『僕らはみんなメイカーズ(作り手)だ。』と主張されています。
作る事は工場の中の事だけではなく、料理やガーデニングなどメイク(make)する事すべてに当てはまると言うのが著者の主張です。
この様なデジタルへの転換は、アイデアや発明を形にし、販売することを変えた為、個人が発明家から起業家へ変わる事ができる。
『趣味を本物のビジネスに』というのが本書の主張です。
では、3Dプリンター等のデジタル機器を使用する事によって米国だけでなく、世界の製造業がどの様に変わっているのでしょうか。
下に続きます。
世界中の工作スペースは1000ヶ所

物を造るというと工場を思い浮かべると思いますが、世界中には1000ヶ所を超える工作スペースがあり、その数は驚くべき速さで増えています。
工作スペースとは、3Dプリンタやレーザーカッター等のデジタル機器が自由に使える場所で、上海だけでも100ヶ所の施設があり地元の愛好家が利用しています。
中には会員制のスポーツクラブの様なチェーン店もあります。
日本にも同様の工作スペースでFablabというのがあります。
makerslove.com
この時代の流れは当時オバマ大統領も認め、2012年に今後4年間で1000ヶ所の学校に3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタル工作機械を完備した工作室を開くプラグラムを立ち上げたぐらいです。
国力を維持しようと思えば、製造の拠点を持たなければならないという基本思想があり、物作りは国家の基本と捉えている様です。
2012年当時でアメリカ経済の四分の一は物を作ることで成り立っており、ソフトウェアや情報産業が好調であっても、そこから生まれる雇用は人口の数%でである為、製造業に力を入れるのは必然であったという事になります。
とはいえ、人件費の高い国にとって製造業を続ける事はますます難しくなっており、低賃金の国に工場が大量流出している為、アメリカ国内の雇用は下がり続けているのが現状でした。
www.newsweekjapan.jp
分子レベルでの3D印刷
3Dプリンタと言えば、溶かした樹脂を積層に積み立てて部品を作っていくイメージを持たれている方が多いと思いますが、他にも活用方法があります。
3D印刷された不活性素材を足場として、その上に患者自身の細胞の層を積み重ねるバイオプリンタもあります。
実験室の中では膀胱や腎臓などを使った実験も行われており、細胞が育ちそれらが組織に成長しています。
3Dプリンタには様々な活用方法があります。
高品質の品物を少量だけ生産し、手頃な値段で販売できるようになれば、経済に与える影響は大きく、それがアメリカの製造業に未来があると当時のオートディスク(3DCADメーカーの大手)CEOは述べています。
3D印刷のようなコンピュータ化された物作りのプロセスは、コストをかけずに複雑さと品質を実現してくれます。
米国の製造業が苦境は海外の人件費が安い事が問題ではない

発展途上国の人件費を考えればアメリカの製造業に未来は無いと思っても不思議ではありません。これは日本にも同様のイメージがあります。
しかし、1番の問題点は人件費よりもサプライヤーの生態系や製造スキルが海外に移っている事が大きな問題となっています。
メーカーとは商品そのものを製造した業者を意味します。
そしてサプライヤーとは商品の部品を製造した 業者を意味し、製品の中心的な機能を引き立たせる部品を製造する業者です。
このサプライヤーの拠点が中国や韓国、台湾などのアジアに移った事でアメリカ国内で製品が製造できない理由です。
iPhoneの裏には、「Designed by Apple in California Assembled in China」と書かれています。
アップルだけが「まだ第一線級のデザイン能力をアメリカ国内に維持している。それは、アップルが部品の選択、工業デザイン、ソフトウェア開発に深くかかわり、製品コンセプトをはっきりと打ち出してユーザーのニーズに答えているからだ」。そのアップルでさえ、生産は中国で行っている。
これは、ハーバードビジネスレビューに発表したアメリカの競争力に関する論文の中でゲイリー・ピサーノとウィリー・シーが発表した内容です。
www.dhbr.net
この様に製品の主要となる部品が中国などのアジアで製造されている為に、米国で生産する事が難しくなっています。
米国で作られているもの
一方で米国国内で販売されている物は、大型製品や価格に比べて人件費の割合が少ない高付加価値製品、そして価格競争にさらされにくい特殊品などが上げられています。
本書に載っている企業は、GE、P&G、3M、ボーイング、ロッキード・マーティンの様な企業が載っています。
中国が台頭したとはいえ、一部の産業ではもの作り大国アメリカは健在です。
この点を考慮すると、人件費を追い求めて拠点を移動する必要はなく消費者に近ければニーズに合ったものを提供できる事を意味しています。
先程のiPhoneも2011年時点では、価格の半分以上がアメリカに留まっていました。アップルや本書に記載されている企業は、部品の大半も含めて中国で生産されていますが、製品デザインやソフトウェア開発等の高級な職種をアメリカ国内に留めています。
LEGOとメイカーズの共存

家庭的な遊びを大切にするレゴには、銃などの武器に対する厳格なルールがあるようです。ごく少数の例外を除いて、マシンガンやバズーカ砲などの武器は製造していません。これはレゴにとっては正しいルールですが、そのせいで戦闘に夢中になる年頃の子供たちは、レゴに興味を失ってしまします。
そこである1人のメイカーが子供のために3Dプリンタで武器を作りました。子供にもウケが良かった事もあり、「大人のレゴファン」向けにシェアしはじめました。すると、もっと作ってほしいという要望が増えたので、ウェブサイトを立ち上げて作品を販売することになったようです。
このメイカーは中国ではなく、アメリカの工場で製造をしています。彼に言わせると、中国でもできないことはないが
- コミュニケーションが遅いので金型を作るのにも時間がかかる。
- プラスチックの品質が標準以下(安っぽい)。
- 金型が中国にあると、自分の知らないところでなにが起きるかわからない。勝手にパーツを作って販売されていても、まったくわからない。
レゴは「補完的な生態系」を築いています。
個人のメイカーがレゴの2つの問題を解決しています。
- 1つは大量生産に適さない物を造りレゴを楽しむ人達のニーズを補っている事。
- ニーズを補完する事で対象年齢が広げ、大人になってもファンで居続けてくれるようになります。
レゴは非公式ではあるものの毒性の無い材料を使う事や喉に詰まらせた時の為に空気穴を開けたりとこうした企業に指導を行っています。
また、ユーザーが自由に3Dプリントしたり、カスタマイズすることを推奨する方向に進んでいます。
i-maker.jp
物作りの新しい時代は大ヒット作がなくなる時代ではなく、大ヒット作による独占が終わる時代になりそうです。
アリババの存在
アリババ・ドットコムは、数千万のユーザーと、中国企業やそれ以外の世界中の数百万を超える「店舗」が、このサイト上で結びつけています。機械工場向けのサイトの中で、アリババはこのモデルをあらゆる人のためのあらゆるものへと拡大しました。
それは、ほぼどんなものでも必要な個数を注文すれば、製造業者が価格を入札してくれます。これは中国の工場を自分のために働かせることができる事を意味します。
この新しい力をどう使うか。メイカーの立場から見ると、アリババや類似のサイトはほかでは実現しえないことを可能にしてくれる手段になります。
これらは、グローバルなサプライチェーンをどんな規模の買い手にも開放し、試作品をフル生産に移すことを可能にしています。
glotechtrends.com
この様な事が可能になったのは、中国経済と経営スタイルが転換したせいでもあります。ここ数年で、中国の製造業者は少量の注文を効率良く生産できるようになりました。深センの工場地帯も同じ様になっています。
以前には大企業にしかできなかったような工場への委託生産が、個人企業にも開放されました。
私は使用した事はありませんが、アリババを検索し、作りたいものを製造してくれそうな会社を見つけ、メールを送って製造が可能かどうかを聞いてみるとアリババのメッセージ機能がリアルタイムで中国語と英語の翻訳を行ってくれる様です。
ここまで充実していると、物作りに対する参入障壁は大幅に下がります。
中国の工場でさえもロボット化は進んでおり、人件費の上昇圧力から解放されるためでもある事と、フォックスコンやアップルが叩かれたような労働環境の問題を避けるためでもあります。
もちろん、すべてを自動化することはできないですが、産業ロボットは今後ますます安く高機能になり、人件費はますます高くなります。
製造面では、オートメーションの拡大と高度化によって、欧米とアジアがますます同じ土俵で戦うようになり、長くて脆いサプライチェーンにかかる直接間接のコストの増大は、調達の見直しにつながります。ディーゼル燃料が値上がりするたびに、中国からの輸送費も上がります。
グローバルなサプライチェーンが抱えるリスク要因のひとつであり、そうしたリスクは消費地により近い製造を支持することになります。
製造業の未来

製造する為の機械は世界共通で同じ物を使う様になりました。汎用性のある機能性に優れた機械はどこの国にいっても使われる為、アメリカであろうとアジアであろうと同じ機械が使われています。
使う機械が同じであれば、違いは人件費のみ。人件費の安い国もいずれ上がってくる事を考えれば、無理して海外に拠点を移す必要がなくなります。
また、工場のオートメーション化が進む事で 製品に含まれる人件費の割合は下がり、海外に工場を移す必要が無くなります。
この観点から見ると今後のアメリカにとってアジアの役割は小さく、海上輸送コストや関税等の政治的なリスク、輸送の遅れ等の隠れたコストを考えれば、製造業のアジアへの移転はピークに達したと考えられます。
これは中国やその他の人件費の低い国への生産委託がなくなる事ではなく、中国が持つサプライヤーはとても魅力的で更に製造業が発展し、今後も大量生産を行う上では圧倒的に有利である事に変わりはありません。
生産量や企業規模により自国で作るべきか人件費が安い国で作るべきか判断が必要になり、企業は1番合理的な場所に生産を移す様になります。
数百万個単位ではなく、数千個単位の特殊な電子部品ならば自国で生産する事は可能となります。
この世界でならアメリカでも、日本でも製造業の可能性が高まります。
但しこれは人件費が安い国にとっても同じことが言えます。
デジタルな物作りは全員が同じ土俵で競争する事になり、どの国で製造しているかという事はあまり重要ではなくなります。
また、必要な物は必要な国で作る事が合理的である為、先進国よりも物が必要になる発展途上国の方が、製造業の未来は明るいと考えられます。
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